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***Honeyholic***

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恋はみずいろ

ブルリンかわいいなぁ…とそれだけを思いながら。 ただじゃれてるだけの話です。 いつもはツン兄貴面してるリンツだってデレますよね?あまえますよね??

女の子が集まればきゃあきゃあと恋の話に花が咲くなんていうものだけれどもムサッ苦しい野郎の集団とて他人のことに限って言えばイロコイ話ってものはそりゃあ面白いものだ。
大体において、そんな事がネタになるのは酒とツマミの脂で口がツルッと軽くなった頃合いのことであるし、酒でバカをやるのはそれはそれは愉しいことだからだ。
煽るだけ煽ってやっても実行するのは本人だ、なんせどうなろうと結果に責任がない、最高だ。そんな良からぬことを思いながらキンっと冷えたビールを煽った。
リンツは生憎とこの目で見たことなんぞ無いが、「帝国の田舎風」とでも言ったところだろうか、かぶりつけば肉汁がたっぷりと滴るようなヴルストやほろほろと蕩けるような肉や野菜の煮込みなどの庶民の家庭料理にずっしり重い錫製のジョッキで供されるビール、手頃な価格に程好い喧騒。士官クラブなんて肩肘張った場所ではない民間商業区の路地裏の酒場は気の置けない古くからの連隊員たちの最近の溜まり場だ。
酔っぱらいの喧騒も度が過ぎれば「煩い、黙れ」と唸るような帝国語でお小言を頂戴することもしばしばだ。
帝国領だったころから営業しているという店主の老父は「転居するのも煩わしいから此処にいるまでだ、あんたらが勝手に後から来たんだろうが」と、敵国の兵士相手になんとも剛毅な御仁だ。
トマトケチャップとカレー粉をその下が見えなくなるほど増量したカリーブルストをプチリとフォークで突き刺していると、聞くことなし件の話題が耳に入ってくる。
「ハァ?おまえいつの間にっ!」
「あの子か!?あんなほっそい子、おまえが手でも握ったら骨折じゃ済まないだろ!?は?まさか…」
「もうヤっちまったのか?おい、ヤったのかって聞いてンだろ!?」
「くっそー、おまえにだけは負けねぇって思ってたのにっ!!」
ミドルティーンの女の子達よりもかしましいこと、ただし会話の内容は比べるべくもなく下品なのだが。
「マジ、想像できねぇえ!!」
「おまえが?あのこと?壊れちゃいそうじゃね?」
「憲兵さーん、ここでーすッ!!」
ワッハハと酒呑みの豪快な笑い声をブッタ切るのもまた野太い声だ。
「おまえら、ブルームハルトちゃんも居るんだからちったぁ気ぃ遣って やれよ」
などとからかい半分に混ぜっ返す。
彼らのなかではブルームハルトと言えば童貞の代名詞で、彼が素人も玄人も合わせて経験がないというのは周知の事実だ。"シンデレラ捜しのブルームハルト"などとどれほどからかいのネタにされようとも本人に確たる信念があってのことなものだから毎度弄られるがままだ、常であれば。が、しかし今日は些かアルコールが過ぎているようで……
「俺にだって好きな人くらい居らいッ!!」
力任せに叩かれた年季の入ったトチノキの天板の上でジョッキはカタカタとタップダンスを踊る。
バシッとテーブルを叩いて、やおら立ち上がったブルームハルトにおぉっと周囲がどよめいた。
「マジか!?ついに??」
「なぁ、ここだけの話にすっからどの子か教えろよ」
「そうだそうだ、俺たちみんなおまえの味方だぜ?さぁ、吐けよ」
「うーん、誰かは言えないけどめちゃくちゃ美人!これはマジ」
「ハッタリじゃねぇんだろうな?」
「ホントほんと。本気で嫁にきて欲しいもん」
「意外だなぁ」
リンツとふたり、テーブル席からはみ出してカウンター席に陣取っていたクラフトが呟く。
「なにが?」
「あいつ、砂糖菓子みたいな甘くてかわいい子が好みなんだと思ってたから美人趣味とはね」
「あぁ、あいつなら新居は白い板壁に赤い屋根とか言い出しかねないよな」
まったくだ、とピクルスを糸切り歯の辺りで噛みちぎって白ワインで流し込みながらクラフトが同意を示す。
背後のテーブル席では「さぁ吐け!」「絶対言わんッ!」と攻防戦が続いていて、クローネカーがブルームハルトの両肩をグローブの様な肉厚の手で鷲掴みにして揺すっている。立っているブルームハルトも自然ぐらぐらと頭から揺さぶられて、あれでは更に酔いも回ることだろう、とリンツは苦い笑いを浮かべた。精々明日は二日酔いと戦うがいいさ、無論、訓練の手を緩めてやるつもりは微塵もない。
ブルームハルトが恋想う人は居ても、告白するどころかデートすら誘えないのだと白状したのが30分ほど前。からかいの声はすっかりと恋愛相談にとって代わってしまった。
なんだかんだと人の良いブルームハルトを悪しき様にいう人間は居ない。きっと彼の想いは成就するはずだと皆が思っているのだ。
「だっから、そんなん、メシだって酒だっていっくらでも誘い様なんてあるだろ」
「メシは時間が合えば一緒に行ってるよ。士官食堂だけど…」
「なんだと!?ってことは相手は軍人か!?」
いっちょまえに見栄なんか張りやがって、とリンツはちいさくごちる。
ブルームハルトが美人の女の子連れで士官食堂に行ってるなんて金輪際聞いたことも見たこともない。どちらかと言えばシェーンコップやリンツの尻をカルガモの子よろしく追ってばかりいるのではないか。ははぁん、予防線か?カモフラージュかと?合点する。
「ちょっと、ちょっと、ブルームハルトサン?そこまでいったらもうお付き合い間近ってやつなんじゃないんですか?」
「んなこたぁないよ。向こうはなんとも思ってないんだから」
「その気がなきゃ一緒にメシなんか何回も行かねぇだろ」
「そんなものかなぁ…」
ブルームハルトはにわかには納得できないと眉間にシワを寄せてくちびるを尖らせる。
「そうに決まってんだろ、おまえが煮えきらないから進展しないんだよ、どーんと押し倒しちゃえよ」
「ないないない、殺されるって!……あぁ、あっちぃ……」
アルコールと羞恥で顔が火照っているのか、自分のブルゾンの胸ぐらをつかんでパタパタと風を送り込んでいる。
ブルームハルトを殺せるくらい気概のある美人の女の子、果たしてそんなのは存在するのだろうか、まったく訳がわからない。
リンツが改めて評してみても、童顔の部類ではあるがブルームハルトの顔は並み以上だし、階級も25で少佐なら上出来だろうし、腕っぷしには文句の着け様がない、性格だって若干愚直すぎるきらいはあれども良いことに相違ない。女癖も悪くないどころかまっさらで間違いなく優良物件だ。彼が本気の恋をしたというのなら、リンツに応援しない理由はない。
「さっさとデートにでも誘ったらいいだろう?相手は案外待ってるかも知れないぞ?」
傍観者を決め込んでいたリンツが話題に割って入るとブルームハルトは大袈裟なほどビクリと身体を跳ねさせた。
「……それ、ホントですか!?」
「ウソついて俺になんか得でもあるのか」
「いや、ないっす」
そう言うと何故だかブルームハルトはグラスのロゼワインよりも顔を紅くして俯いてしまった。
「でっ、デート、どこが良いですか?」
ブルームハルトの良さは保証してやれてもリンツにはデートプランの教示をしてやれるほどのストックはない。自身の経験、食事と飲食とあとはなし崩しにセックスに雪崩れ込むのが常だがそんなことは口が避けても彼には言えない。
「映画だのショッピングだのスポーツだってテキトーに一緒に楽しめそうなのがイゼルローンにだって山ほどあるだろうが」
苦し紛れに専科学校生がするようなことを提案してみると至極真面目くさった顔をして聞き入っている。
「なぁ、ブルームハルト、おまえメシ行って会話成立してるの?その子と」
クラフトが訊ねるとコクリと大きく頷く。
「そ、なら、普通に誘ったらいいだろう?メシもデートも変わらないよ」
「ふぅん、エア、ってわけじゃなさそうだ。って、気になりません?アイツの愛しのあの子って」
他のメンツに拐われるようにテーブル席に戻ったブルームハルトを目を細めて見送りながらクラフトが呟く。
「まったく気にならない、と言えば嘘になるな」
ジョッキに残ったビールを飲み干してリンツが応じた。シェーンコップあたりなら「生きてるうちに精々イイ女を沢山知っておけ」とでも気の利いたことをいえるのだろうが。
「隊長こそそっち方面、最近どうなんです?」
これはまたとんだとばっちりだとリンツはうろん気に隣に目線をくれる。
「そっちこそ、そろそろ結婚とか」
クラフトに長年の恋人がいるのは知っている。先にイゼルローンに赴任していた恋人宅へクラフトが転がり込む形で同棲していると聞いた。
「疑問で返さないでくださいよ、こっちは相変わらずですよ」
「そうか、俺も特異事象なしだよ」
恋愛に不甲斐ないのは自分達かも知れないな、そんなことを思った。
佐官クラスに割り当てられた宿舎区画に戻るのはリンツとブルームハルトのみだ。
いかに和気藹々としていても軍隊は階級社会で酒場から一歩出ればリンツは中佐、連隊長でブルームハルトは少佐なのだ。襟元に付けられたバッジの序列が全てだ。
「ブルームハルト、ここはこう見えても最前線なんだ、せいぜい平和なうちにデートを楽しんでおけよ」
道すがら、酒で火照った頬を撫でる夜風は人工的なものであっても等しく優しく、リンツの手のかかる弟分へ向ける眼差しは自然と甘いものになる。
「あぁ、もう、わかってますよ、そんなに急かさないで」
ブルームハルトは大分酔いが回っていそうだがなんとか自力歩行しているのでまだ救われる。これが千鳥足なんぞだったら目も当てられない。それこそ上官命令で誰か付き添いを用立てねばならぬところだった。そこらへ放置してトラ箱に保護者として迎えにいかねばならぬなぞ真っ平だ。
ふと立ち止まり、うーだかあーだかとひとしきり唸っている。まさか、吐くとか言い出すのではとリンツが危惧したところでブルームハルトの口から明瞭な言語がでた。
「せんぱい、映画、行きましょー!」
「ハァ?いまからか?」
直に日付も変わるという頃合い、リンツとて素面な訳ではないが突飛な行動に出るほど出来上がっているわけではない。確かにレイトショーはまだやっているだろうが、これから映画を観に行かねばならぬ意味がわからない。
「…あ、いや、今じゃなくて、今度、今度っ!映画じゃなくて買い物でも…」
「おい、意味がわからないぞ」
「だぁかぁらぁ、デートしてくださいって言ってるんですっ!!わかります?」
ブルームハルトを見れば完全に目が据わっていて……そう、怖い。
「ちょっと待て、おまえは好きな子がいるんだろう?その子を誘わないでどうするんだ」
「ああ、もうっ!!だからこうして誘ってるじゃないですか!!先輩が誘われるの待ってるなんて気がつかなくて、先輩に恥かかせるような真似しちゃってスミマセン!だから……」
リンツはこめかみに指先を当てて、酒に鈍った思考力をかき集めてみる。なにかがおかしい、話がまったく見えないのだ。常の彼であれば酔客の戯言とバッサリ斬るところだが、律儀にも理解しようと努力を試みる程度にはリンツはこの日、アルコールに思考をやられていたのだった。
「まて、まて、まて、な、一旦落ち着け、整理しよう、少し、酔いをさませ、な?」
ひとまず街路のベンチに腰を下ろさせ、落ち着けと諭す。これはかなりの悪酔いの部類に入るのではなかろうか。
水かスポーツドリンクでも飲ませたほうが良いだろうかと辺りを見回しているとブルゾンの裾を強く引かれてバランスを崩したたらを踏む。
驚いて見やればグスグスと鼻を啜りながらしゃくり上げる25歳児がいて目眩がした。
「ぜんばい…だっで、うっ…ぐっ、誘われるのっく、まって…るっで…」
「……ごめんな、ブルームハルト、おれ、ちょっとよくわからないんだけど、おまえの好きな子ってのは…」
「んなの、せんぱいにぎまってんじゃないですがぁ!!…ふぐっ…せんぱいが…せんぱいがぁっぁあ…」
すがりつき、しゃくりあげ、挙げ句ポカポカと年端の行かぬ子どもの癇癪のように叩いてくるのが加害者が加害者なだけにわりと本気で痛い。 
そうか、おれか、俺なのか…ブルームハルトが好きなのは俺……と、音声としては確かに聴覚できるのにその言葉の意味するところまで理解が追い付かない。理解はできていないが、ただなんとなくそうした方がいいんじゃないかと、リンツはブルームハルトを抱き寄せてそのデカい背中を撫でさすった。まるで転んで泣きじゃくる子をあやすように。
上背はリンツが勝るもののウエイトではブルームハルトに軍配があがる。泥酔の域に片足突っ込んでいるようなそれに肩を貸し二足歩行させるというのだから、いかな薔薇の騎士連隊連隊長リンツと言えども骨が折れるのに変わりない。おまけに自身もアルコール漬けときた、自室までのたかだか数百メートルが今日はとてつもない距離に思える。
長い長い距離、数十分の格闘の末に自室のリビングスペースに辿り着いたところでとうとうリンツも力尽きた。
もとより広さはそこそこあるものの、所詮は単身者用のワンルームタイプの部屋、ベッドは目前だというのに一度膝をついたら最後、再び立ち上がる気力などなかった。だらしなく床に伸びた身体の上にゴロリとこれまた重たい部下の身体がのし掛かるがはね除ける気力もない、圧死するほどでもなかろうと放置することにした。我慢ならなくなれば蹴り飛ばせばいい、とも。
上官を枕に部下は高いびきとはなんともイイ気分に違いない、睡眠を阻害する要素にはとことんまで辛辣なリンツであった。
酒を飲むとトイレが近くなるのは古今東西共通の生理現象だから致し方のないことだ。
夜半、不意の尿意にブルームハルトが目を覚ますとそこが自室ではないことに気づいたが、生理現象には勝てないので家主に無断でトイレを拝借した。
用を足し終えて、目を覚ました地点に戻ってみれば上官が床の上でだらしなく手足を投げ出しており、あぁ、ここは先輩の部屋だったかと理解する。
数時間寝たことでブルームハルトの頭の中にかかっていたアルコールの靄は大分薄まった気がするが、まだほんのりいい気分だ。普段、睡眠だけは譲らないリンツ先輩がこんなところで寝入っているのだから相当酔っぱらっていたのだろうな、などと悪びれもせず思う。
伏せられた瞼を縁取る睫毛は髪の色よりもくすんでいて、スッと通った鼻梁のラインはやはり帝国人に近い。薄く開いた唇から深く慎ましやかな寝息が溢れるのをしばらくの間眺めていた。
いつも側にいるというのに、こうしてただ飽くまでずっと不躾に人の顔を見つめる機会などそうあるわけはない。どれだけそうしていただろうか、その後、逡巡しながらも思い切って肉の薄い頬にそっと唇を押し付けてみた。その間、どうか、どうか、彼が目を覚ますことの無いようにと祈りながら。
人知れずささやかな悪事を働き終えたと同時にリンツが身動ぎしたものだから、ブルームハルトはあわてて彼に背を向け寝ているふりをした。
ブルームハルトの不埒な行いもすべてのリンツにはお見通しだった。
何故なら、彼はとっくに目覚めていて、彼の方こそ狸寝入りを決め込んでいたのだから。
リンツが目を覚ましたのはブルームハルトが用足しに行った際だ。耳慣れぬ水音につられて意識が覚醒してしまい、その原因に思い至った時には思いきり舌打ちした。
「人の家だぞ、用を足すならドアを閉めろ、バカっ……」
もう一度眠ろうと体勢を変え、目を閉じたところでブルームハルトが戻ってきたのだ。見られていると言うのは視線の気配でわかった。いっそ飛び起きて断罪してしまえばとっとと二度寝をキメられたものをそれができなかった。肌に触れた呼気と少し湿った柔らかな感触でキスされたのだと気付いた。
そこで唐突にシナプスが結合し昨夜の断片的な記憶が繋がった。
ブルームハルトが俺を……好き?ーー
そこから身動きすることなどできなかった。
じっと息をひそめ、ひたすらに眠っているふりをする。意識は完全に覚醒してしまっているというのに。
やがて確かな体温と厚みと重みを兼ね備えた腕がリンツの腕ごと体躯をさらって引き寄せる。すっかり擦れ切った気でいたが、よもや20代も後半に足を踏み入れてこんな胸の詰まるような心地を味わうとは思いもしなかった。
心臓がばくばくと酷く動悸しているのでブルームハルトに起きていることがバレてしまうのではと危惧したが、頭蓋の下に敷かれた彼の上腕から伝わる体温と脈動が心地好く眠りを誘い、全てがどうでもよく思えて知らず再び眠りに落ちていった。
明日のことは朝になってから考えても遅くはないだろう。ここは自分の城、誰の目を憚ることもない、今日一晩くらいは。



*pixivにも掲載しています*

「恋はみずいろ」/ゆんぺい   [pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8061312

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