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***Honeyholic***

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スピリタス・ショットガン【R-18】

宴の後は死屍累々。

一手に引き受けた事務仕事を片付けて合流してみればいつも通りの惨状。手こずった自分が悪いのさとリンツは苦い笑いを浮かべる。
床に転がったむくつけき男達の波を脚先で掻き分け、時には蹴飛ばし、歩を進める。ちょっぴり踏みつけフギャッとひしゃげた悲鳴が上がるのもまあご愛敬だ。

奥へ奥へと歩を進めると豪快な笑い声を轟かせ未だ宴たけなわの集団が。


「あ、たいちょ~、こっち、こっち~」
へらへらとなんとも間抜けなニヤケ顔でご機嫌なのは先に合流させたブルームハルトだ。
見るからに出来上がっている。酒に弱いわけでもない彼がへべれけになるなんて、一体どれだけ飲んだんだ、リンツは知れずため息を小さく吐いた。




「おれはね、ほんっとーに惚れてるんですよ」
わかってんですか?と座った目でねめつけられながら絡まれる。
そんなの知るかとリンツはにべもない。
隣にどうぞなんて勧められるままに腰を下ろしたのが失敗だった。
「おい、飲みすぎだ。水飲め、みず」
水のグラスとすり替えようとしても酒を持つ手を離さないのだから畏れ入る。ブルームハルトは絡むだけ絡んで相も変わらずケラケラと笑い続ける。典型的な酔っぱらいだ。素面で相手をするにはいかにも分が悪い。

「せんぱぁ~い、全然飲んでないじゃないっすか~飲まないとぉ~」
と目の前に差し出されたのはショットグラスで、なるほど、こいつ、テキーラで落ちたのか、とリンツは合点した。
楽しい酒なら結構だがことによるとブルームハルトのやつ、既に足腰立たなくなっているのではないだろうか。

クセの強い高アルコール度数の酒でもジンジャーエールと半割りすればホイホイ飲めてしまう。だが、その中身が中身なだけに気付いたときには文字通りショットガンで一撃されたかのようにカックリ腰砕けという寸法だ。
幸か不孝か明日は非番、よし、その勝負、いっちょ受けてやろうじゃないか。
リンツは年季の入ったオーク材のテーブルにパァンと良い音をさせてグラスの尻を叩きつけると、炭酸の細かい泡がたつ。シュワリと噴き上がった泡の消える前にグラスを一気に煽った。
途端、喉を焼く異様な灼熱、鼻に抜ける消毒用エタノールのごとき芳香にしまったと思ったが、もう遅かった。

………テキーラじゃない、だと!?



あっという間に出来上がった目の前の虎2頭をシェーンコップは面白い余興のようにニヤニヤしながら眺めていた。

「なんだ、おまえら酒の飲み方も知らんのか」
と自身はグラスの中身をステアするように指先で弄びながらウイスキーを舐めている。

ことの発端は若い奴等の好奇心にかられた度胸試しだった。
最初はウォッカ、そしてアブサン、スピリタスととにかく強い酒でショット・ガンをおっ始めたのだ。その成れの果てが入り口に転がる屍の山というわけだ。もはや飲料というよりも燃料といった体の液体に果敢にも挑戦し散っていった者たちの残骸。
目の前のお世辞にも酒に弱いとは言えない部下たちも酔いつぶれては居ないものの、塩梅は相当おかしい。


「だって好きなんだもん、しかたないでしょ~」
唇をとがらせて開き直るのはブルームハルトだ。すき、だいすきっすとただそれだけを壊れたレコーダーの様に繰り返しているのだ。
この様子を録音してあとで聴かせてやったらどんな顔を見せてくれるのやら、シェーンコップは最高の肴を得た気分で傍観していた。

「おまえなぁ、好きってさぁ、それだけじゃ成り立たないだろう」
真面目な顔をしてさももっともらしく説教するのはリンツだ。とにかく酒精が顔に出ないやつで事の次第を知らないものになら素面といっても通用しそうだ。
お互い、イイ年なのだ。好きです、お付き合いしましょう、でお手々繋いでショッピングだけでは済まないのだ、というのがリンツの主張らしい。
まぁ、そうだろうな、とシェーンコップは心のうちで相槌を打つ。


だが雲行きが怪しくなってきたのはそこからだ。

「じゃあ、例えばの話、おまえ、俺とセックスするとか考えたり、それも込みの話で言ってんの?」
リンツが煽り気味に見下ろして現実を突きつけてきたのだ。
「そんなの男同士でもそういうことできるってのは知ってますよ」
対してブルームハルトは膝の上でぎゅっと拳を握りしめて俯いたまま。
「ふうん、おまえ、野郎のケツ見てチンポおっ勃てて突っ込めるの?俺はおまえとおんなじモノ股にぶらさげてんだぜ?しかも突っ込む先はケツの穴だぞ!?正気か?」
リンツは初心なブルームハルトに対して敢えて直接的な言葉で切り込んだ。夢ならはやく目を覚ませ、と。
「なぁ、聞いてんだろ?答えろよ」
「そんな…」
「……そんな?なんだよ、言ってみろよ」
リンツには底意地の悪いことを言っている自覚はあった。さりとて、もうはっきりさせてもよい頃合いだろうと。
リンツが更に畳み掛けようとしたその時、やおらブルームハルトが顔をあげた。
「そんなの!見たことないからわかんないッス…。だからぁ……」
先輩、見せてください、と。
しかも既に片手はリンツのスラックスに届かんとしているではないか。
「何言ってるんだ!?おまえっ!!」
ブルームハルトの手がベルトに掛かった。
慌てふためきリンツが一歩後退しようにも足は覚束なく、ましてや捕捉されてしまっていては時既に遅し。
「そんなに言うなら見せてくださいよ!先輩の!!」
尻というものの尻たぶなどではないことは明らかだ。リンツのウエストの辺りでは攻防戦が展開されている。
いったい何が悲しくて部下に尻穴を晒さねばならぬというのか。酔っぱらいというやつは本当に始末に負えない、などと自らがさんざ煽り倒したことなど遠くに棚上げしてリンツは憮然とする。無論、自身が相当な酔っぱらいだということにも気付く筈もない。

「待て、なぁまて、ブルームハルト。おまえさ、女の子にもマンコ見せろとか言うのか!?言わないだろう?え?デリカシー、デリカシーを思い出せ!!」
掴み合っては振りほどき、足で蹴ろうとすれば捕まれる、もはや近接戦闘の様相を呈してきていた。
「……せんぱいが悪いんですよぉっ!俺、ちゃんと勃ちますからっ!!見せてくださいよ、ほら、はやくっ!!ぜったい、絶対に勃ちますから!ほらっ」
もうジッパーを下ろさん勢いだ。
「しつこい!!股開いてマンコ見せてみろっつってほらって見せるバカが居るかよっ!!」
売り言葉に買い言葉、もうどちらも一歩も引けないところまで来ていた。
膠着状態、千日手、そんな言葉が頭を掠め出した頃合いだった。それまで沈黙を守っていた深みのあるバリトンが空気を震わせる。
そろそろ頃合いだろう。


「おい、リンツ…」
彼らの唯一無二の絶対君主が静かに口を開いた。
「ブルームハルトは尻を見せろと言ってるように俺には聴こえるんだが、なんだおまえさんにはヴァギナがあったのか」
じゃあそれなりに扱ってやらんとな、プリンツェスィンと。静かに、言い含めるように。

瞬間、ピシリ、と空気が凍りやがて硝子のようにくだけ散る音をリンツは確かに聴いた。
怒っている、これは上官の相当にお怒りの時の所作であった。
文字通りショット・ガンで撃たれたようにカクリと力が抜け、へなへなと膝から下が覚束無い、そして顔は焼け石に突っ込んだかのように燃えるように熱い。
死にたくなる、とはこう言うことだろうか。
今になって初めて気がついた。不思議なほどスッと瞬時に酔いが覚めた。
外聞もなく喚きたてたせいで部屋のあちらこちらからの視線が刺さる。視線だけならまだしも、ざわめく声もがハッキリと聴こえる。

「おい、聴いたか?」
「あのリンツ連隊長が…だろ」
「さすがにあれはないな…」


普段、連れだってその手の店に赴くでもなく、仲間内で過度の下ネタが飛び交えば嗜める側にいた人間が、もっとも直接的な単語を人目も憚らず喚き散らしていたのだ。その衝撃といったら。
無論、男の中の男と崇められるリンツがよもやプライベートでは……などと知るものはいない。




「なぁ、リンツよ。まだ飲み足らないだろう?俺の部屋で飲み直さないか?聞かせてほしい話も山程あることだしな、なぁに、夜は長い…」



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