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***Honeyholic***

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まったく噛み合わないリュネリン、コプリン。若干リュネコプ。

リューネブルクの逆亡命直前期を捏造。
拙作、ケルベロスの庭の続きのような関係ないような…
作中のエーデルワイスはトラップ大佐の方ではなくEs war ein Edelweißです。


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美しい花は最も美しいときに手折り愛でる
もの、それが第11代薔薇の騎士連隊、連隊長へルマン・フォン・リューネブルクの流儀であった。
事実、リューネブルクは英雄色を好むの言葉を体現するような素行であったし、「酒も色も歌も好まない男は一生馬鹿げた人生を送る」と公言して憚らない男であった。






貴様のところの若造が潰れて邪魔だから引き取りに来い、そう言って呼び出されたのはあと僅かで日付を跨ぐという時分であった。
シェーンコップは今まさにベッドで白い柔肌を堪能しようとせんところであったし、そもそもそんな気分になっている根源は昼間のリューネブルクの八つ当たりに在るのだから到底応じる気にもならず部下を差し向ける旨返答をしたがにべもなく却下された。
「俺は貴様に言っているのだ、シェーンコップ。貴様が来いと言っている」
有無を言わせぬ腹の底から凍りつくような声だ。連隊長殿の機嫌の悪さは現在進行形らしい。
シェーンコップは苦虫どころか半径数メートル以内に居るものなら即座に咬み殺せるのではないかという程の凶悪さを露にし、既に通信の途絶えた端末を睨み付けた。
一晩の熱を分けあう筈だった女性には口先だけで非礼を詫び、文字通りリップサービスの接吻を落とすとおざなりに最低限の身支度を整え駆け出した。


「小官はあなたほど悪趣味な人間を存じ上げませんな」
リューネブルクの私室にたどり着き二息で呼吸と感情とを捩じ伏せるとシェーンコップは吐き捨てるように言い放った。
「フンッ、褒め言葉と取っておこう」
わざわざバスローブのみを羽織った姿で迎え入れたのは言わずもがな、当て付けだろう。
だが迎えに来いと呼びつけた割に"厄介者"が見当たらない。
呼びつけた本人はと言えば涼しい顔で酒を煽っている。まったくもって憎たらしいと言うか。
最近のリューネブルクのシェーンコップに対する嫌がらせはリンツという媒介を挟んで増幅の一途であった。

「うちの若いのが連隊長殿にご迷惑をお掛けしておるそうですので引き取りにあがった次第ですが、どちらに?」
リビングを見回して居ないとなれば自ずと知れていたが、殊更苦々しく問うた。
顎で示された先の扉に歩を進める前にシェーンコップはどうしても一言言わずには居れなかった。
「あいつはあれで結構重いので小官を迎えに呼び寄せるほどまでに抱き潰すのはご自重いただきたいものですな」



リューネブルクは同衾相手を機嫌次第で寵姫とも奴隷とも扱う。
今日はどうやら"奴隷"の日だったらしい。御愁傷様だ。その状況、いや惨状を前にシェーンコップは心底うんざりした。嫌がらせにも程がある。
他人の情事の後片付けなどやりたくもない。
先程、身体を重ねる直前で反古にしてきたことを思い起こせば不快感は更なりであった。

「おい、リンツ起きろ。帰るぞ」
自力で動いてもらうべく声をかけてからシーツを剥ぐ。死体ならば仕方ないが生きている人間には自力で動いて欲しいものだ。
剥ぎ取ったシーツの下の惨状具合はギリギリ予想の範囲内、文字通りの惰眠を貪っている訳でもあるまい。肩口を揺さぶり覚醒を促し、拘束されていた両手首のバンテージを剥がしてやり、ノロノロと大儀そうに起き上がったところにティッシュペーパーを渡してやる。
他人のザーメンなど出来れば触りたくない。
睡魔に陥落寸前といった体であるが泥酔やクスリのトリップの類いは無さそうだ。
しかしまぁ、これが愛を交わすような行為なのだろうか?両手を拘束され、尻は叩かれたように赤くなっている。行為後の後始末もされずに放置されたままで。
他人の性癖は計り知れないが、少なくともシェーンコップには理解しがたいものがあった。

「あ、たいちょ……シャワー、あびたい…です」
ぐったりと脱力してボソボソと呟く声には精彩も知性の欠片もない。
「家まで我慢しろ」
「…ですよねぇ」
ぐしゃぐしゃと淡い金髪を掻き乱しながら大きく溜め息をついている。溜め息を付きたいのはこっちの方だ馬鹿、と言う言葉をシェーンコップは飲み込み下着を拾ってやった。
「ほら、ちゃんと自分で立って歩け」
シャツを羽織らせ帰宅を促せばとこれまたノロノロ立ち上がろうとするが途中で挫けた。
胡乱気に見やれば内腿を伝う白が見てとれ、頭を抱える部下にかけてやる言葉など有りはしなかった。

今現在、リンツが地位と腕力で捩じ伏せられて強要されている、とは思えなかった。
未だリューネブルクに勝てるだけの力は無いかもしれないが、何の抵抗もなく屈するほど弱くはない。少なくとも何らかの彼の同意がなければかのリューネブルクをもってしても無傷で組み敷くなど出来はしないだろう。
リンツに同性愛の気は感じられない。少なくともシェーンコップが抱いたときには(男性に対する言い草として正しいかは解らないが)純潔であった。
なにかの拍子リューネブルクとリンツの間に愛でも芽生えたのだろうか、考えにくい、考えたくもない事ではあるが。



シェーンコップはとっととこの愉快ならざる時間を終わりにしたかったが、牛追いよろしく尻を蹴飛ばして追いたてる訳にも行かず、ようようリンツの部屋にたどり着くとすぐさまバスルームに追いやった。
しばしシャワーを浴びれば色々付き物と眠気が落ちたのか、マトモに会話できるまでに復活した。
しかしまぁ、並の陸戦隊員ではないこの男をよくもここまでセックスごときで消耗させることができるものだ。リューネブルクの底無しの精力と体力に感嘆を禁じ得ない。無論褒め言葉などではない。

まだ髪が乾いていないというのに気にも留めないリンツからタオルを奪いワシワシと拭いてやりながら柄にもない説教をしてやる。
「俺は部下の色恋にケチつけるような無粋な男にはなりたかないが、おまえさん、情人にする相手を見直す気はないのか?」
当初のきっかけは兎も角、装飾品を贈られ、身体を重ねるような関係であるのならもう少しマシな有り様があるのではないだろうか。
「情人とは心外ですね。俺は上官が呼ぶから出向いているだけですよ」
上官には逆らえませんからね、と嘯く姿はいつものリンツだ。その上官に召し使いのごとく髪を拭かせ気持ち良さそうにしているのは何処の誰だろうか。
「ほう、そりゃ大した勤勉さだな、軍人の鑑じゃないか。じゃあなんだ、おまえさんは俺が求めりゃ相手になるのか?おまえさんのお陰で俺は今晩の甘い時間を反古にせにゃならなかったんだがな」
ブルーグリーンの眼を細め気怠げにベッドの上で身動ぎしながらリンツは事も無げに答えた。
「それはすみませんでした。貴方が望むのならお相手致しましょうか、満足は保証できませんが」
そう言って手を伸ばしてくるがどこまで本気なのかを考えると空恐ろしくなる。
熱が抜けきらない情事の艶を色濃く残した姿は大変に目の毒だ。特に彼の媚態とその肌の滑らさを知ってしまっているシェーンコップには。今晩は熱を発散し損ねた。そのことを今更ながら憎々しく思う。
目の前にあるのは毒杯だと解っていても手を伸ばしたくなる、それが猛毒であっても自分だけは生き残れるのではないか、リンツにはそんな冷静な判断を失わせる危うい魅力があった。
思考を飛ばしていると下半身で不穏な気配がしている。正視できずに横目で確認すれば今まさにシェーンコップの砲身に舌を添え、その咥内へ迎え入れんとしているところであった。目が合えばそっと告げられる。
「目を閉じていらっしゃい。これなら女性と大差無いでしょうから」
やめろ、とは言えなかった。半ば兆してしまっている以上、それは虚しい抵抗でしかなくそれならば不本意であろうが前進あるのみだ。
薄い唇で横から咥えて巧妙に食むように圧をかける。芯が通れば柔らかな舌に唾液を絡ませ根元から舐めあげる。先端まで到達すれば今度は根元近くの裏筋を親指で柔く刺激しながら他の指を筒状に包み込むようにして刺激し、愛撫でカウパーが溢れ出だせば尖らせた舌で鈴口をこじるように刺激する。
的確ではあるが機械的ではない。
こんな手管を教え込んだのがリューネブルクかと思うと苦々しいがこの身体を最初に征服したのが己なのだとシェーンコップは知っている。そのことに暗い愉悦を禁じ得ないのも確かであった。
軽い呻きとともにシェーンコップが自身を解放するとそれをコクリと飲み干し尿道に残るものまで吸い上げたリンツが口を開き舌を見せる。

「ご安心くださいな。俺にだって心に住まう誰かくらい居ますので。それが連隊長殿では無いことは保証しますよ」
シェーンコップは大層複雑な気分になりながらこの憐れともふてぶてしいとも言える部下の言動に眉をひそめた。
「想い人が居るなら尚更、矜持だの貞操観念だのの基準を見直して、とっとと愛をささやいて撃墜してきたらどうだ。人生は思うより短いぞ」
しかしこれには堪らないとばかりにリンツは盛大に吹き出し、続きケラケラと笑った。
「なにがおかしい」
少々憮然としたシェーンコップにリンツは返す。
「いやね、俺の矜持だの貞操だのを隊長に説教されるなんてどんな冗談かと思いまして」
小首を傾げて上目で覗き込む様のなんとあざといことか。
「それに隊長、貴方が言ったのでしょう、こんなことじゃ俺の世界は壊れないと」
色を含んだとろりと甘い声は遅効性だが確実に死へと繋がる猛毒だ。
シェーンコップは此処に至りようやく思い当って自己嫌悪に陥る。そうだ、こいつを殺したのは己なのだったと。
何にも知らなかったリンツの心も身体も地位と見えぬ力で捩じ伏せ蹂躙したのだ。殺意のひとつふたつ向けられても不思議ではない。
シェーンコップは降参だとホールドアップして見せた。
「ふふ、冗談ですよ。意地悪は俺の性に合いません。だけど、そうですね、アルペンローザのザッハが食べたい気分です」
彼の心は窺い知れない。取り敢えずの損害賠償の要求だろうか、それにしては安すぎる。
「ザッハトルテか、ならアルペンローザよりカフェ チロルの方が旨い」
「へぇ、そうなんですか!?」
目を輝かせて食いついてくる無邪気さに心がチクリと痛んだ。
「……と言ってた。先日寝た女がな」
部屋から立ち去るシェーンコップの背中にピローと"二階級特進しやがれ!"との罵声が贈呈された。



カフェテリアの壁際の席を陣取ってリンツは格闘していた。ブラックコーヒーを友として。

目の前には艶々としたチョコレートで美しくコーティングされたザッハトルテが2つ、ホールで鎮座している。
ダークブラウンの箱にゴールドのリボンで上品にラッピングされていたそれはアルペンローザのものだ。一方の白い箱は見覚えが無かったが掛けられた赤いリボンにTirolとプリントされているので件の店のものなのだろう。
フォークでザクザクと無造作に切り分け行儀悪く指先で摘まんでかじりつく。上質のクーベルチュールは直ぐに体温に融かされ指先と口もとを存分に汚していく。
摘まんだ一片が無くなればペロリと指先を舐めあげた。
周囲に漂う噎せかえるようなカカオの香り。
「チョコレートケーキ、お好きなんですね」
苦笑いも隠さずデア・デッケンが声を掛ける。
「おかしいか?」
彼は首を横に振る。
「いいえ、とてもかわいらしいですよ。普段の貴方からはとても想像できない」
行儀悪く椅子の上に立て膝をし、チョコレートケーキをかじりながら猫の毛繕いのように指先を舐めあげる青年が同盟軍屈指の陸戦隊のそのまた取扱注意な危険物だなんて誰が思うだろうか。
フンッ!とひとつ鼻をならしてリンツはデア・デッケンの口にトルテを突っ込んだ
ザッハトルテには脂肪分多めの無糖ホイップをたっぷり添えて、それがリンツの好みだったが如何に美味な物でもこれでもかとドーンと積まれれば食傷気味にもなろうというものだ。
「あのオッサンどもには加減っていうものを教えてやらないとな」
酒を望めば美酒を溺れるほどに、花を望めば窒息しそうな程の薔薇を贈ってきそうだ。愛には加減を、旨いものは少量あればよいのだ。
さしあたりザッハトルテは…当面見たくもない。

彼ら二人は互いに反目しあいつつ本当によく似ている。少なくともリンツはそう思っていた。尤も当人らは承服しないであろうが。



「デッケン、あとはブルームハルトあたりに片付けさせてくれないか?」
「もうよろしいので?」
「あぁ、半年分は食べたさ。それに身体が重くなると嫌われる」
これから白兵戦実技の合同訓練が予定されている。素手で今日は何人沈めるのか、自分が賭け事のネタにされていることも知っている。
「なぁ、デッケン。俺に賭けたやつらには精々旨い酒が飲めるようにしてやらないとな」
ニヤリと口の端を上げた様のなんと物騒なことか。デア・デッケンはこの悪魔と同じ隊に配属された好運に感謝すらしていた。



飼い犬にはきちんと首輪を付けておかねばな、そう言って左の耳に小さな輝石を添えられたのは何度目の"呼び出し"の時だっただろうか。
装飾品を人身の枷とするなど貴族趣味ここに極まれりとその時思ったものだが、そう言えば、自身にピアスホールがあることをリューネブルクに伝えたことがあっただろうか。
コトの最中にそれを発見したのなら大した観察眼であるが、もしピアスホールが無かったとしたらその場で貫通させられたのだろうか、それはそれで少々背筋が寒くなる話だなとも思う。
リンツがホールを開けたのは専科学校時代で、"左耳のピアスは勇者の証"と聞いた友人数人で一緒に針を通した。それは密やかな背伸びした子どもの遊びだった。
しかし暫くは誇らしく思っていた其れも怪我をすれば治療の妨げになるし、生来の面倒くさがりも手伝って放置されて久しい。軟骨に近い位置のそれは装飾品さえ付けていなければ気付かれもしない。
リューネブルクが1cmにも満たない小さな小さなそれを己が身に付けている姿を見れば満足だというのならそれほど手のかからぬ事もあるまい。
リューネブルクとの行為自体が生物学的、人道的に考えて枠内か否かと言う点とそれに愛や情が伴っているかという点を除けば、リューネブルクはリンツを所謂プレイとして以外には肉体的に傷つけることは皆無であったし、それなりに快楽を得ていたのだからリンツとしては然程苦痛とは思っていなかった。
感情の伴わないセックスなどスポーツと同義であるからだ。
寧ろ心を痛めているのはシェーンコップではないのか。
それにリンツは正確に弁えていた。己に対するそれが代償行為であることを。リューネブルクの興味は自分に向いているのではない、自分の向こう側、シェーンコップに向けられているのだと。
リューネブルクがリンツに無体を働くときはシェーンコップにそれとわかるように見せつけるためである。ある時は呼びつけたシェーンコップの目の前で口淫させてみせ、またあるときは行為の後始末をさせたりもした。
まったく子供じみた馬鹿げた話じゃないか。
付き合わされるシェーンコップには同情する。
リューネブルクは同性愛者ではなく女性の柔肌をより好んだし、リンツとの行為は最初は懐刀を手に入れるため、今は専らシェーンコップへの嫌がらせと手頃な性欲発散と言った所だろう。

リューネブルクがリンツに興味を示したのは戦闘能力とその歌声のみだったのかもしれない。
リューネブルクはしばしリンツに歌を請うた。戦場でも酒の席でも、寝室でも。


"人知れぬ厳しき岩肌に
青空の下 気高く
咲く一輪の白い花"
リューネブルクの鼻唄に厚みのある伸びやかなバリトンが重なる。
"私はその衝動おされ
その気高き白をひとつ手折り
美しき愛しいひとへと贈ろう"

「ほぅ、貴様、知っているのか」
リューネブルクはカフスを外す手を止め、驚いたように振り返った。
「…エーデルヴァイス、と記憶しております」
リューネブルクの口ずさんでいたそれはテラの古い歌で軍の山岳部隊で好んで歌われていたという。
エーデルヴァイス、二人の捨て去った故国の言葉で"気高き白"。愛しきものへの愛を示す為にその花を求めて何人もの人間が断崖へと挑んだという、忠誠を誓う愛の花。
リンツは思った。この人は誇りや忠誠心に人一倍価値を見いだす人間なのだろうと。
「俺が帝国貴族のままだったなら貴様のパトロンになってやるのにな」
「俺の歌など趣味の域を出ませんよ。歌うことは金が要りませんからね、貧しい亡命者の子にも許された数少ない遊びなのですよ」
そう言ってリンツは朗々と言葉を紡いだ。
目を閉じてじっと聴き入る彼は何を思っていたのだろうか。
答えを知ることは叶わなかった。





次の出撃の際、リューネブルクはそのまま逆亡命を果たしたのだから。



「凛として颯爽とした人でした。元連隊長殿が心で何を思っていたのかまでは小官の知るところではありません」
リンツの回答は一貫していた。
リューネブルクの逆亡命後、薔薇の騎士連隊は一人残らず審問を受けた。特に麾下であったヴァーンシャッフェ、リューネブルクが執着を見せたシェーンコップ、尋常ならざる関係にあったと目されたリンツらへのそれは審問というより尋問と言うべき苛烈さであった。だが、なにも知らないのだから答えようがなかった。


「そいつは値のはる代物だぞ。存外、やっこさんはおまえさんを本気で可愛がっていたのかもな」
リンツの耳に添えられた輝石についてシェーンコップが言及したのはそれから暫く後の話だった。その輝石がスターエメラルドでありごく希少なものであるとはリンツは知らなかったし今更知ったところでどうにもなるものではない。


リューネブルクは過去の人となる筈であった。







ヴァンフリート4=2までは。

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