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***Honeyholic***

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ケルベロスの庭

コプリン前提のリュネリン、リュネコプです。
非合意描写アリ。

捏造しまくりです。
養成課程がシェーンコップのそれと違いましたね。すみません。

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養成課程を終了して薔薇の騎士連隊に配属されること4日目。
カスパー・リンツ准尉は冷たい営倉の壁に背を預け天井を仰いでいた。
ここにぶちこまれてから約1日。
脱臼した左肩から腕の痛みは固定による可動制限と鎮痛剤でだいぶマシになったが、しこたま殴り蹴られた腹部は未だ鈍く痛んだままだ。軍医によれば内臓の損傷は無いそうなのでこればかりは時間に解決を委ねるしかないのだろう。

間違ったことはしていないつもりだ。
誰だって身の危険を感じれば反撃のひとつもするのは当然で、たまたまその対象が上官でかつ一撃だけの反撃が綺麗に鼻骨を陥没せしめたというだけで。
「危険物」それが己に貼られたレッテルなのだとリンツが理解するまでにそう時間はかからなかった。
すべては偶発的な事故だ、事象の原因を除いては。
憲兵隊に尋問されようとも当事者が頑として口をを割らなかったためにざっくりとした状況証拠から「生意気な新入りの躾が行き過ぎた挙げ句しっぺ返しを食らった」と判断されたようだがリンツにしてみたら当事者としてことの次第を証言するのも胸糞悪かったので口を閉ざしていたのだ。

誰が上官筆頭の集団レイプの被害に会いそうだったのでやむを得ず反撃しました、などと言えようか。

上半身の動きを封じるために後ろ手にきつく拘束され、反抗の意思を殺ぐために痕の分かりにくい腹を集中的に狙われ痛め付けられた。
1度だけ、窮鼠猫を噛むがごとく成した反撃が見事に決まり上官の苦悶の叫びで憲兵隊が駆けつけた時には加害者どもは筆頭を放置して逃亡しており、顔面スプラッタの中隊長と上半身は拘束され下半身を剥かれたリンツが床に蹲っているといういささかシュールな状態だった。

では軍規で禁止されている上官による私的制裁の被害者たる彼が何故このような処遇に有るのかと言えば、今回の当事者が直属の上下関係にあったことで彼の去就が決まらないこと、自室で謹慎とすれば上官を撃沈させられた部下たちの私刑を招きかねないこと、軍病院には加害者たる中隊長が入院していること、彼自身の怪我が命に関わる類いのものではないこと、何より鼻摘みもののローゼンリッター内でのいざこざなことだからだ。
要約するならば、元来厄介者のそのまた危険分子は当面檻の中に入れておくべし、ということなのだろう。
療養及び謹慎という名の軟禁状態で。


[newpage]


大隊長室に出頭を命ぜられたワルター・フォン・シェーンコップ大尉は上官の前でも不機嫌さを隠そうともしなかった。
「小官の時計が確かならば勤務時間は終了してるとは思いますが」
対するオットー・フランク・フォン・ヴァーンシャッフェ中佐も慣れた様子で端末を操作し、なにごとも無かったかのように続けた。
「よろしい。ではシェーンコップ大尉、貴官に12分の超過勤務を命じよう」
月末に累計した際、超過勤務時間数が30分に満たなければ切り捨て扱いとなり結局はタダ働きとなる。発令された超過勤務12分プラス義務的休息15分、足して27分、恐らくは無償労働となるだろう。
元々生活超勤の趣味はない、ごく正当に処理されては不平のひとつも言えなくなってしまった。
シェーンコップはフンっと不遜に鼻を鳴らし促されるままに着席した。
「で、超過勤務まで発令して大隊長が一体小官になんのお話か」
「貴官、何日か前に着任したヒヨコの話は知っておるか?」
「生憎とゴシップを追いかけるほど暇人ではありませんので。しかしながら、着任人事とちょっとした祭が有ったことは存じております」
シェーンコップは過不足なく説明した。
第16中隊中隊長のベルント・ホーネッカーと愉快な仲間たちが上級養成課程上がりの新入りの゛躾゛に失敗し手酷く噛み付かれた、と。それに、所謂シモのゴシップのオマケがついたとなれば大した娯楽もないこんな僻地の駐屯地にはもってこいの祭となっていた。

「なら、話は早い」

シェーンコップには読めた。皆まで聞かずとも目の前の食えないオヤジの魂胆は正確に読み取れた。
「カスパー・リンツ准尉を第7中隊付に、つまり貴官に預けようと思うのだが、どうかね?」
「どうかねですと?やれやれ、超過勤務まで発令しての話ならどうせ小官には拒否権などないのでしょうに」
必要以上に盛大にため息をついて見せた。
「で、まさか小官に飼い殺しにせよだの躾直せだのとくだらんことを言うわけでもありますまい、本音をお聞かせいただく権利くらいあると思うのですが」
生意気な小僧の根性の叩き直しを目的にするのならより苛烈な場所に送りこんでしまえば良い。少なくとも自分より適任がいるはずだ。
「少なくとも彼を潰す為に貴官に預けるわけではないな」
「ほう、ではそれなりに使いものにはなる素材ではあると?」
「あぁ、専科は主席だったそうだ。教育課程も次席、うち実技科目に限ればいずれもトップだ。」
「ほう、そいつは優秀な」
「うむ。身体はまだ成長途上で将来性もある。私は知らんが連隊長殿は教育課程の視察で彼を見たそうだ」
そんな逸材を敵に回すのはぞっとしないが味方となるのなら、懐刀として自分の手元に置きたいと思うものは多かろう。
「年季明けには連隊長付きにという話もある」
下士官上がりのものは上級教育課程を終了すると3ヶ月の候補生生活の後、少尉として任官するのが通例だ。
少なくとも上層部は現中隊長のメンツより新任の小僧の将来性を買ったらしい。
「ま、微力を尽くすとしましょう。ガキのオムツの世話をせにゃならん程歳をとったとは思いたくないものですがね」


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シェーンコップとしては今度こそ勤務時間終了であるし、ヒヨッコよあと1晩くらいは檻のなかで社会勉強でもしてくればいいさとも思ったが、やはり好奇心が勝ち、そのまま迎えにいってやることにした。
勝手知ったるなんとやら、房番号を聞くと迷わず足を向ける。普段連行されてくる側の人間が迎えに来たというのだから看守係は笑いを堪えるのに必死の様子だった。
一方、檻の中の住人、カスパー・リンツはシェーンコップの姿を見るや規則に従い直立敬礼をすべくふらつく身体を叱咤した。
「シェーンコップ大尉だ。入るぞ」
「カスパー・リンツ准尉であります」
毅然とした模範的な直立姿勢だったが、発声した瞬間の僅かな唇の震えとブルーグリーンの瞳が一瞬泳いだのをシェーンコップは見逃さなかった。
「なんだ、おまえさん腹をやられてるのか?」
シャツを捲り怪我を確認しようとしたところでリンツの血の気が完全に引いた。
……こいつは厄介だなとシェーンコップは理解した。やはり噂の通り、単なる私刑ではなく性的暴行だったのかと。
「安心しろ、俺はなにもしない」
すぐに彼の着衣から手を離し、両手を上げ危害を加える意思のないことを示してひとまず腰を下ろさせる。
血の気が引いただけならともかく、瞬間、リンツは攻撃に転ずるべく僅にだが重心を移動させたのだ。引き際を間違えば即座に蹴りを叩き込まれていただろう。
兵士としてはいい反応だ。かのリューネブルクが気に留める理由がほんの少しわかった気がした。
一緒になって床にしゃがみこみ、改めて口を開く。お前に対する害意は無いのだということをそこかしこに滲ませて。
「どうにも堅苦しいのは苦手なものでな。俺は薔薇の騎士連隊第7中隊中隊長のワルター・フォン・シェーンコップ大尉だ。俺がどうやらおまえさんの面倒をみることになったらしい。ま、お手柔らかにな」
それを聞いたリンツは酷く申し訳なさそうに髪色と同じプラチナブロンドの眉を下げた。
「申し訳ありません。お手を煩わせます」
これにはシェーンコップが面食らった。上官をブッ飛ばす危険物と聞いていたし、先程の動きや警戒心も野性動物のごとしだったのに、今の彼はそんな様子を微塵も見せない腰の低い礼儀正しい真面目な青年ではないか。
先に頭を下げられてしまえばシェーンコップのなけなしの庇護欲が擽られて、結局、そのまま釈放の手続きをとり連れて帰ることにしたのだ。
現金や仔猫じゃあるまいし、預けると言われてハイそうですかともいくまい。明日からは正式な部下だ、こいつは随分とやりがいがありそうだ。やるべきことを考えたら軽く頭痛がする程度には。

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釈放されたのだからおまえは自由の身、だからとっとと自分の部屋に帰れともいかず(そんなことをすれば今度こそ大惨事だ)かといって総務部は時間外に新しい宿舎の貸与事務などしてはくれないだろう。消去法でシェーンコップはリンツを自室に連れ帰ることにした。
先ずはシャワーを浴びさせ腹を満たして人間に戻してやらなければ。
「ムショ帰りはまずシャワーだ」
帰宅早々有無を言わさずバスルームへ突っ込もうとしたのだが、傷の痛みでぎこちなく動くのと左腕が使えない為にまどろっこしそうにシャツを脱ぐので手を貸してやることにした。拒絶されるか威嚇されるかと思ったが、意外や平身低頭するだけだった。
次に声をかけながら脱臼した肩を固定している補助具を外してやる。これもうっかり肌に触れてしまえばビクリと大きく震えるものの、まぁ大丈夫だったので内心ほっと一息ついた。
しかし改めて見れば、ところ狭しと浮いた大小様々な内出血にいくら怪我や流血は日常茶飯事で目にしてるとはいえ、暗澹たる気分になった。
その後も腕が上がらないので大型犬にするようにして髪を洗ってやり、着替えを手伝い、腹を満たしてやれば、その度にリンツは律儀にも恐縮し頭を下げるのだった。
流石に軍備品の狭いベッドで大の男二人で寝るの気にもならなかったし、怪我人を床やソファーに寝かせるわけいくまいと「俺は余所に幾らでもベッドはあるからな、まぁ、好きに使え」そう言い残して部屋を出た。

ここなら襲撃されれることもあるまいて。



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翌朝、部屋に戻り身支度を整えリンツを従えて出勤する。一晩ゆっくり休養をとったせいか彼の足取りはだいぶ確かなものだった。腕は多少不便するだろうがもう大丈夫だろう。
連隊長の前に出頭させ辞令を受け取り、リンツは正式にシェーンコップの部下となった。
そして彼の腕の怪我が完治するまでの身の回りの世話はデア・デッケンに任せることにした。
デア・デッケンにせよブルームハルトにせよ近い将来士官を目指すにあたり教育課程にブチ込まれるのだからリンツは良い家庭教師になるのではないかと思うのだが、ブルームハルトは外様の加入に些か抵抗があるようだった。クソガキが。


それから数日はリンツにデスクワークを主にさせてみた。
正確かつ迅速な事務処理能力は今後も大いに重宝するだろう。もっとはっきりと言ってしまえば、こいつは楽ができるとシェーンコップは大いに期待した。
その後は肩の固定が外れるまではランニング中心の体力作りと下半身強化を、肩が完治すればリハビリをと陸戦隊員としてどうにかカムバックするまでに実に1ヶ月近くを要した。

リンツを自分の貴下に引き取ることが決まったあの日にヴァーンシャッフェから耳にした前評判に偽りはなさそうだ。万全とは言えない状態でリハビリがてらにさせた模擬戦でも対ブルームハルト戦で勝率3割を超えており、
シェーンコップはブルームハルトを鍛え直すことを優先課題とせねばならなかった。
一方、リンツにも課題がないわけではなく、持久力の強化という課題が与えられた。他部隊出身の彼のそれは薔薇の騎士連隊基準には届いていなかったのだ。

「持久力の無い男は女性に嫌われるんだそうですよ、准尉殿」
「そうか、そいつはご忠告痛み入るな」
「曹長、准尉殿は女性を知らない貴方にだけは言われたくないとお思いかと」
「うるせぇ、デア・デッケンてめぇ…」
「ほぅ、おまえさんはまだ童貞なのか」
波長でもあったのか、怪我の完治後もデア・デッケンはなにかとリンツとつるんでいる様子で、相も変わらずブルームハルトはリンツに突っかかっているようだ。
リンツもブルーグリーンの眼差しを細めてよく笑うようになった。
いやはや賑やかなるかな、我が中隊。
シェーンコップはつかの間の平穏を楽しんでいた。



「おい、貴様ら体力が有り余ってるようだなぁ、あと10kmばかり走ってこい!」




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それはリンツの候補生期間も終わりが見えてきた頃だった。

「カスパー・リンツ准尉、どうだね怪我の具合は」
そう声を掛けられたのは、兵士相手に何人か連続して組み手を行い、もういい加減腰を下ろして一息つきたいとそんな思いがピークに達した頃だった。
連隊長の声かけあらばと疲労で半ば姿勢を崩しかけたところから無理矢理体勢を整えた。
同盟軍一美しい敬礼をする集団、(それがまた嫌味ととられること数多なのではあるが)たる薔薇の騎士連隊らしくリンツも指先まで神経の行き届いた実に模範的な敬礼でもって上官に相対した。
「その節はご心配お掛けいたしました。既に完治しております。お気に掛けていただき恐縮です。」
「うむ、聞くところによると貴官は実に優秀だそうじゃないか、どうだね次の非番の前にでも私の部屋で一杯」
「アイ・サー」
基本的に上官の誘いを断わることは不可能なわけで3日後の晩の予定が埋まった。
入隊早々に厄介事を起こした自分だ、忘れかけていたが連隊長直々に説教のひとつでも頂戴するのかもしれない、あまり旨い酒の席にはならなそうだとリンツは少々気を重くした。

その光景を少し離れて見ていたシェーンコップは当人と異なり、来るべき時が到来したのだと理解していた。
帝国を遠く離れてもこんなところで未だその悪しき風習に囚われ続ける自分達のなんと愚かなことか。しかしまた彼自身も因縁を絶ちきれてはいないのであった。



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リンツは突如として発生した違和感の正体に苦しんでいた。
ロッカールームで、食堂で、通路での通り様にそれは複数の揶揄を含んだ好奇の視線と密やかに囁かれる声とに形となって表れ、しかもそれは時間追うごとに膨れ上がって行くようだった。
しかしこればかりは誰かに相談すると言うわけにも行かずただ己のうちに不快感が堆積するばかりだった。

それが明確な形でリンツ本人に襲い掛かってきたのは翌日の訓練後のシャワールームでだった。
「おい、聞いたか?新入りの姫はナイトを選り好みするんだとよ」
「あぁ、中隊長殿を袖にした癖に連隊長殿には嬉々として足を開くんだろ?」
水音に負けないボリュームでブースを越えて交わされる会話の内容にリンツは耳を疑った。
「連隊長殿の寵愛を賜われば安泰だもんな、上手いことやったもんだぜ」
「いつから薔薇の騎士連隊は新無憂宮になったんだろうな?」
「ははっ、俺らも忠実な犬を演じていればおこぼれのひとつにも預かれるかもなァ」
それに下品な笑いが続く。まったく聴くに絶えない。
恐らく彼らはリンツが側に居るなど思わずにいるのだろう。だが、どうにも煮腹だ。今すぐここから飛び出して断罪してやろうかとリンツがギリギリと奥歯を噛み締めているとどこかのブースから一際大きな声が聞こえた。
「あーあ、ったくウルセェったら、実力でモノ言わせられない奴らがいっくら吼えてたってムナシイだけだっての!!」
ブルームハルトのやつ…
残念ながらその声が慰めの足しになることはなかったが、その気遣いはリンツが絶望に膝をおるのを阻止することはできたようだ。
そしてシャワールームに人気が無くなるまでリンツがブースから出てくることはなかった。

タオルで乱暴に髪を拭きながら先刻投げつけられた言葉を何度も反芻する毎にどす黒いものが腹の底に溜まっていく気がした。
まだそうと決まったわけではない。
もしかしたら本当に酒を酌み交わそうとそんな意図なのかも知れない。
ただ、ことここに及んでそうだと思えるほどリンツは洞察力が欠如してはいなかった。

上官によって権威を傘に性的に屈伏させられ、矜持をズタズタに引き裂かれるようなこんな行為は精神的処刑と一緒ではないのか。
ホーネッカーは中隊長、有る意味小者だったから手を出したところで正当防衛で処理して貰えたのだ。対してリューネブルクは連隊長、己が軍隊という組織にいる以上逆らえそうにない。合意の上での行為だったとされるか、もしくは自分が牙を剥いたところで手酷い返り討ちに合うのが関の山だろう。なんせ相手は史上最強の薔薇の騎士連隊長様だ。

…薔薇の騎士連隊以上の流刑地なんてあるのだろうか?逆らえば命がないか、今度こそ敵陣の中洲に得物無しでパラシュート降下かもしれないな。

そもそも俺は食うために軍人になった筈だ。
断じて上官にレイプされるためでも、それから逃げて戦死するためでもない。
自死は趣味ではない、しかしながら当面すんなり戦死できるような戦闘に直面することもなさそうだ。
だとすれば…
取り敢えず酒が必要だと思った。兎に角キツい酒が。解決になるとは到底思えなかったけれど。


[newpage]


勤務解放後もそのまま部屋に帰る気にもならずサロンの隅に陣取って、もう何杯目かわからないグラスを煽っていた。
するとテーブルの上に影が落ちてきたので見上げれば、数ヵ月前にどん底から自分を引き摺り上げた上官が何とも言えない表情で見下ろしていた。
「隊長殿だって知ってるんでしょ?もう此処等が俺の年貢の納め時みたいです…今度こそ、本当に…」
鼻で笑い飛ばそうとして失敗した。カッコ悪い…
見下ろす眼光が冷たく思えて、ひどく惨めな気分だった。あぁ、俺はこの人からも侮蔑されるのか、せっかく掬い上げて貰ったというのにまた叩き落とされて。

「おい、ここらで止めておけ」

グラスを口にしようと手を上げれば横から拐われてそのままグラスは空にされた。
琥珀を嚥下するためにグリッと蠢く喉元に釘付けになった。男らしさの象徴に思えたのだ。
あぁ、この人くらい男らしければ自分はこんな理不尽な目に合わなくて済んだのか?
少々身長は足りないかもしれないが自分だって決して華奢という訳ではない。声は低いし物腰だって穏やかとは言えない。
女の代用品には役不足だろう。
なのに何故?怒りはどこへ向ければ良いのだろう。
「ほっといて貰えませんかね、中隊長殿には理解できないでしょう?これから強姦されると宣告された野郎の気持ちなんぞね」
視線がますます剣呑になったのがわかったが知ったことか。手を振り払いテーブルに突っ伏した。
「ハンっ、どうせなら俺はアンタみたいな…」

そこで記憶は断絶した。


[newpage]


意識が浮上して先ず目に入ったのは白いシーツとほんの少し違和感を感じる見知ったような天井と。
首を振ればまだ頭の芯がアルコール漬けになっているらしく鈍く重い。時間からすれば意識を手放してから精々1~2時間と言ったところか。

ここはどこだ?

内装の感じから軍用宿舎の一室には間違いないだろう。残念ながら自分が割り当てられたそれではないようだが、だとしたら、ここは?
しかしそれは然程置かずに判明した。
シュンッと軽いガス圧の音と共に家主が部屋に入ってきたのだから。
ぺチャリと冷たい感触がして額に濡れタオルを乗せられた。
「自分の酒量もわからんヒヨッコめ。代金はたっぷり出世払いにしておいてやるからな」
「……申し訳ありません。」
状況から察するにここはシェーンコップの私室らしい。アルコールで火照った身体に幾分ひんやりとしたリネンの感触が心地よい。
四肢が脱力しきっていてこのまま目を閉じ眠ってしまいたいところだったが、上官のベッドを一晩占拠するわけにもいくまい、自分の塒へと撤退しなければ。
モゾモゾと身体を起こそうとしたところで逆に体重を掛けられてしまい更にベッドに沈んだ。
リンツは何が起こったかを判断できずアルコールに霞む思考をかき集めつつシェーンコップを見上げた。
すると鉤状に曲げた人差し指の背でリンツの肉の薄い頬をすぅっと撫で上げながらシェーンコップが口を開いた。
「なぁ、知っているか?帝国の軍貴族社会には自分の懐刀を獲るためにこいつはと思った優秀な部下を手籠めにするという因習があるのさ。そしてその忌まわしき風習は亡命者によって自由惑星同盟にももたらされた」
リンツは言葉を失った。作り話にしたってもう少しマシなものがあるはずだ。
ここは自由の国、民主共和制の国家、自由惑星同盟の地ではないのか。
そんな封建的なことがあってたまるか!
「リンツよ、自由惑星同盟の中にも暗黙の治外法権の場所がある」
「…亡命者コミュニティ?」
「そうだ。そして軍の中では此処、薔薇の騎士連隊」
「カスパー・リンツ、聞け。俺は今からお前を抱く。時代錯誤甚だしい愚行だと自分でも思うが俺はみすみすお前をリューネブルクなんぞにくれてやる気ない」
イカれてるだと?あぁ、そうともさ、こんなの狂ってるに決まってる!
俺もリューネブルクもホーネッカーのゲス野郎もだ!!シェーンコップの内心の怒りは凄まじかった。
こんなやり方は主義に反する。だが、己とて過去にリューネブルクに屈伏させられた身であり、今更どんなに声高に叫ぼうとも飼い犬の烙印は消せないのだ。
己にはリンツを逃がしてやることはできない、ならば散らされるのを待つ花をこの手で手折ってしまえば良い。
あんな公衆の面前で処刑を予告して獲物が考え逃げ惑い怯える様を楽しむようなやり方は本来のリューネブルクらしくはない。恐らくはそれに煩悩し足掻き絶望する己の姿をも興のひとつとしてるのだろうとシェーンコップは思った。

内心の煩悩に動きの止まったシェーンコップを見てリンツは腹を決めた。
除隊以外で生きて薔薇の騎士連隊を離れるものはごく僅かだ。つまり1度配属されれば此処が終の住処となる。身の処し方を決断しなければならない。正に今がその時なのではないだろうか。
誇り高き薔薇の騎士、そこに流儀があるというのなら騎士には騎士の儀礼があろう。それが正解なのかは分からなかったがリンツはシェーンコップの右手をとり、その甲に口づけた。

「俺の忠誠をあなたに」



[newpage]

シェーンコップは決意していた。
己の持てるすべてを持ってリンツに対峙することを。
矜持を捨てさせその身を差し出させたのだ、最大限の敬意を払い、せめて身体の苦痛だけは取り除いてやらなければと。
だから壊れ物を扱うようにその身体に触れた。
ところがシェーンコップが心を砕けば砕くほどリンツは怪訝な顔をしてみせ、とうとう声を荒げたのだ。

「シェーンコップ大尉、俺は将来に渡る忠誠心の全てをあんたに差し出し、今此処であんたに殺される。あんたはそれに答える義務があるッ!あんたの本気はそんなものか?」
ブルーグリーンの瞳に激情を宿し真っ直ぐに睨み付ける、それは殺意にも似て。
シェーンコップは己の過ちを正しく認めた。
そして、ひとつ大きく息を吐くと宣言した。
「カスパー・リンツ、改めて言う。おまえは俺のものだ」




リンツの方とてシェーンコップを煽りに煽り倒した代償の支払いに苦慮していた。
とうに腹を括った……つもりだった。
何も命をとられる訳じゃない。なのにッ!
チクショウ!畜生!手足が震える…情けないが止まらない。砲弾飛び交う下を潜り抜けた時だって今よりずっとマシだったハズだ。
身体の中心を焼けた鉄杭で貫かれた様な気分だった。律動の度に臓器ごと嘔吐してしまいそうで。
セックスがこんなに苦しいものだとは知らなかった。今までの彼の経験すべてを塗り替えてしまうような。
大の男二人分の体重を掛けられた貧相なパイプベッドはギシギシと不満の声をあげている。
訓練でマウントを取られたことなら何度でもある。だけど残念ながらこれは近接戦闘の訓練なんかじゃない。
寛げられた軍服を割り開いて遠慮なく撫で回す大きな手に肌は泡立ち、背中を冷たい汗が伝い、呼吸は頼り無く狭窄しきった気管がヒュッと鳴いた。
何度も目が霞み意識が遠ざかる。その度に荒い息を吐く合間にペチペチと軽く頬を叩かれ現実に引き戻される。
ヘーゼルの瞳が覗き込んでいる。心の底まで見透かされるようなそれに沸騰していた頭の芯が水を差されたようにスッと冷えた。
「よし、戻ってきたな、目を逸らすな!いいか、お前を抱いているのが誰なのかしかと目に焼き付けろ!」
シェーンコップの顔は完全に絶対的捕食者のものだった。だが、リンツにも覚悟と意地がある。
「…ぁっ…ヤヴォール! ヘア ハウプトマンっ!!(承知しました、大尉殿)」
腹の底からの渾身の叫びで答えた。




嵐の中の小舟のように激しく揺さぶられた熱が過ぎ去れば甘く恋人の後戯のように汗に濡れた髪を手で鋤かれた。



「リンツ、お前の世界は壊れたか?」
流石に限界で意思に反して徐々に閉じていく瞼の隙間からヘーゼルの瞳を確認し、薄れ行く意識の最後に答えを返した。


ーNein

[newpage]





数日後、動きに精彩を欠いたリンツを見つけてシェーンコップは肝を冷やしたが、恐る恐る声をかければ、当の本人は悪びれもなく涼しい顔で言い放った。

「連隊長には大層可愛がっていただきましたよ。精々高く"処女"を売り付けてやりましたからね」


顔を見合わせどちらからともなく吹き出す。
さて、どんだけ寝かせた後にネタばらしをしてやろうか、悪童たちの悪戯はまだまだ始まったばかりであった。

そして翌日、カスパー・リンツの候補生期間終了と少尉任官が正式に発表された。

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