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***Honeyholic***

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ベリーベリーショートケーキ

気がついたらブルームハルトくん、お誕生日でしたね。
やっつけのつもりはないのですけど、こそこそっと短いのを。

「なんだ、その景気の悪いツラは」

どうにも浮かない顔の部下たちにシェーンコップは努めてなんでもないように声をかけた。
彼の部下ばかりではない、誰も彼もが皆疲弊しきっている。
あらゆる事象にはすべからく理由というものが存在するものだ。だが、シェーンコップには今まさに撤退作業を終えようとしているこのヴァンフリート星域に於ける戦いにまだ理由を見出だすことができなかった。
頼りにしていた部下、懇意にしていた情人、然程敬愛してもいなかった上官と失った物は枚挙に暇がない。
そして対価して獲たものと云えば、かつては尊敬もし屈伏もさせられた上官に対する明確な殺意くらいなものだ。
もっとも、後世に於いて検証されてもなお、この一連のヴァンフリート星域会戦は「無意味」と評されることになるのだが。



先だって彼らの薔薇の騎士連隊最強のカルテットはトリオへとその頭数を減らした。
当然愉快な気分な者など居ない。
普段減らず口の彼らでさえ沈黙の落ちることが多くなった。半ば廃墟と化した基地内に横たわる死傷病者の山のなかで。
ついこの前まで酒を交わしバカを言い合っていた奴が物言わぬ物体と変化していた。

「おい、おまえ、今日誕生日だろう?」
そうリンツから声をかけられたのは撤退の荷造りも終わりあとは搬出を待つだけ、と一息いれていたところだった。
何気ない彼の一言にひどく動揺した。
彼には自分の揺らぎが見えたのだろうか、それとも自分はそれほどまでに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。年端のゆかぬ子どものように、誕生日を祝ってもらえないごときで寂しがるような。

お祝いしようぜ、と差し出されたそれにはさすがにブルームハルトも面食らってしまった。
ベースは補食で出される焼き菓子だろうか、その上にこれでもかと乗せられたクリームとストロベリージャムをリキュールで伸ばしたような微妙な甘さの赤いソース、なんともひどい見てくれだ。
だが、口を開け、と半分無理矢理口に押し込まれたそれは限りなく甘く、行列が絶えないような有名店の超豪華なケーキよりも旨いと思った。
不覚にも鼻の奥がツンとしてぶわりと視界が滲んだ。
「でも、こんなときに祝い事だなんて怒られちゃいますね」
らしくなく戸惑い、小さくそうごちたブルームハルトにリンツは言葉を落とす。常の彼とは異なる角の無いおとで。
「なに言ってるんだ。生き残ったやつには生まれてきた日を祝う権利があるはずだ。それがどんなときであってもな」
パチリと音が聞こえそうなほどハッキリと伏せられた右の瞼から煌めく星が見えたような気がして、そのまままっすぐに心臓をぶち抜かれた。
ドクドクと脈打つ音が煩くてたまらなくて、その心臓から送り出された血液で顔が熱くなった。

「誕生日おめでとう、ブルームハルト」
両頬に手のひらを添えてスッと至近に寄せられたリンツの相貌から目を離せない。あぁ、そのままキスしてくれないだろうか、ブルームハルトは同性であるはずの彼に何故かそう思った。
だが物事はそう上手く行くわけもなく、手のひらはそのまま頬を滑り、温もりは去っていった。

「先輩、ここから帰ったら、ケーキ、ちゃんとしたのでやりなおしてくださいね」
待っているだけでは駄目なのだ。
去っていくなら追えばいい。手を伸ばし続ければよい。そして名を呼び続けて……

ひとつ年を重ねてブルームハルトは心密かに抱負を抱いた。

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