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***Honeyholic***

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リッサの鉄の棺 【R-18】

ちょっと書けなくなっていたのでリハビリを兼ねて。
コプ←リン←ブル前提で。


ふと視界に入れた相貌がそう見えたものだから。

「先輩、つらい?」
「……はぁ?」
リンツは怪訝という言葉を具現化したような態度で息を吐いた。

「あれ、おかしいなぁ、なんだか泣いてるように見えたんですけどね」
「……泣いてなんかねぇよ、ばか」
プライベートの時間は限りなく甘い。

ソファに腰掛けたブルームハルトの脚のあいだ、自分はぺたりと床に尻をつけてリンツがその逞しい腿に頭を預ける。そうしてしばらくモゾモゾと首の湾曲を添わせていたがやがて収まりの良い場所を見つけたのだろうか、くったりと脱力して目を伏せた。幾分長すぎとも思えるプラチナブロンドがさらりと頬を滑って眦を覆う。
「ね、先輩、膝貸してあげるからキスしてもいい?」
「……いちいちきくな、ばか」
いちいち聞くなというものの、お伺いをたてずに狼藉に及べば機嫌によっては平手のひとつ、蹴りのひとつも頂戴しかねないというのに。
このまま眠りに落ちてしまう心算だろうか、薄い唇から溢れる言葉はとろりと棘がない。
「バカってねぇ、先輩さっきからそればっか」
じゃれる姿は年相応よりなお幼く、普段の冷静沈着な猟犬の群れのリーダーとして君臨する彼の姿しか知らぬものからしたら目を疑う光景であろう。
寄り添った体温は温かく、預けられた重みが愛しい。
「……おまえがばかだからじゃないか、ばーかっ」
「バカバカってさっきっからもう…」
これには苦笑いするしかない、子どもじゃあるまいし。
短くない彼との付き合いで、彼が時折こうしてひどくくだらない子どもじみた真似をすることをブルームハルトは知っている。甘えているのだ。普段は兄貴風を吹かせるくせに。そのギャップを知るのは自分だけなのだと思うと何とも言えない優越感に心が沸き立つ。

まだ宵の口、流れる時間はひどく穏やかだ。
しかしどうにも調子が狂う。
ブルームハルトはリンツのしたいがままに任せてその違和感の正体を考える。日常との微かな違いへの気付きは生還への第一歩だ。

ただ漫然と繰り返されるとりとめのない低次元の悪態にブルームハルトは半ば呆れながら、許可も得たことだしとリンツの前髪をかきあげ、触れるだけの口づけを落としてギョッとした。
手に触れたうっすら汗ばんだ額、水の膜を湛えた瞳、かさつきひび割れた唇、その口から漏れる吐息の熱さ、常の彼ではないのは明らかだ。
一体いつからだったのだろうか、側にいながら彼の不調に気付けなかった不甲斐なさに自分を殴ってやりたい気分になった。
「ちょっ、熱あるんじゃないですか!?」
「……ないよ、ばかっ」
「ほら、またバカっていう!」
無防備に晒された頸動脈の辺りに手の甲を滑らせればおどろくほど熱い。
ブルームハルトは有無を言わさず、自分よりもはるかに上背のあるリンツの身体の両脇に腕を差し入れて半ば引き摺るようにベッドに連行し、最後はバックドロップ紛いに投げ入れた。
「ったぃな、なにするんだよ!!」
そんな潤んだ瞳にギロリ睨まれたってちっとも怖くなんかない。
心なしか身じろぎする動作も緩慢に見える。
「具合悪いんでしょう?なんで言わないんですか?ほら寝ないと」
「悪くないし、眠くもない」
口を尖らせて徹底抗戦する構えは愛らしいとも言えるが、いまに限っては厄介に他ならない。
「うそばっか、ほんと見栄っ張りなんだから!そこまで言うなら今から俺とスパーリングしますか?できますか?できないでしょ?」まったく子どもじゃないんだから、とそこまで捲し立てるとブランケットを肩まで掛けてやる。
「こんなの大したことない、大袈裟なんだよ」ぶつくさと往生際の悪いこと。
熱を計ったほうがいいだろうか?微熱、というには難しそうな体温だった気がする。薬、とも思ったが、原因がわからない以上やたらと飲ませるのもよくない気がする。医者へ担ぎ込んだほうがいいのだろうか。
さて、どうしたものかとブルームハルトが思案していると、ブランケットの端から目より上だけを出して潜り込んだリンツが心底恨めしそうにブルームハルトを見上げていた。
「……おまえ、喋るなよ?」
「は? 」
「閣下には余計なことを言うなって言っているんだ」
低く唸る声にハリもツヤもない。やはり相当辛いのではないだろうか。そして、上官には言うなだと?この期に及んでなにをほざくのか。
「熱が下がらなきゃ欠勤するしかないんだからそうなったら言うしかないでしょうよ」
「……そんなんヤダ」
「子どもですか……なら明日までに熱を下げないと」
そう言ってやればコクリと頷く様が常の彼とはあまりに異なっていて不謹慎ながらもブルームハルトとは役得と胸をアツくさせたのだった。
額を冷やすかと聞けばいらないという、怠いかと聞けば渋々頷く、喉はと聞けばこれまたコクリと。
「隊長、ちょっと口あーんして」
常ならば「バカにしてんのか?」などと凄まれるところだが、すっかり観念したのかリンツは素直に口をかぱりと開いて見せた。
赤く熟れた喉の奥、白い斑点がぽつりぽつりと見えていた。
「隊長、残念。これ風邪じゃないっすよ。扁桃炎、医者行かないと」
ブルームハルトが太い眉をハの字に下げて穏やかに告げるとリンツは飛び起きてブルームハルトのブルゾンの裾を握りしめた。
「……明日には治るのか?」
勿論、ブルームハルトに保証はできない。だが、さっさと医者に診せて抗生物質を処方してもらわなければ。
「さぁ、俺にもわかりません。でも早く薬を飲むのが1番いいんだってことはおれでもわかります」


高熱による悪寒なのだろう、寒いとしきりに言うのでブランケットでリンツの肩口を覆ってやり、呼び寄せた無人タクシーでメディカルセンターへと急いだ。
具合が悪いのなら素直にしかるべき対処すべきであるし、それが理解できないリンツではない。それがなぜ?一体いつからなのか、周囲に隠し通して平静を装って、さぞかし胆力の要ったことだろう。せめて副連隊長を張っている自分には打ち明けて欲しかった。それとも自分はそこまでの信頼を未だ勝ち得ていないのだろうかとブルームハルトは忸怩たる思いで居た。

良くないことは重なるもので、診察が終わり処方を待つ間に見知った顔に遭遇してしまった。姿を隠そうにも心身ともに疲弊しきっているのか、リンツは完全に傍らのブルームハルトに身体を預けて目を閉じてしまっている。
「おや、どこかお悪いので?」
向こうは顔見知りに声を掛けた、程度のことなのだろう。一空ではなく二空隊長だったのがせめてもの救いだった。
「ええ、隊長が少し。コーネフ少佐こそ?」
「俺はメディカルチェックの結果を聞きにね、中佐殿にはお大事に、と」
声のトーンを落として交わされる会話はリンツを気遣ってのことだ。最低限の会話の最後に敬礼を施してコーネフは立ち去った。
「無理しないで明日休んじゃえばいいのに。1日、2日くらいどうとでもなるのに」
なんの気無しに呟いた言葉はしっかりとリンツの耳に届いてしまったらしい。
「……うるさい。明日は問題ない、休まない」
何をそんなに意固地になっているのだか、身体が資本の陸戦隊員、身体が動かなきゃ元も子もないのだが…
まだ体調悪化の底は付いていなかったらしい、もしくはさらけ出したことで気力が尽きたのか、ブルームハルトにしがみつくようにして立ち上がり帰路についた。
道すがら、すっかり弱りきってすがりつく想い人に胸がざわつく自分の下衆さにブルームハルトは自嘲する。


薬を飲ませて床につかせれば後は時間と自身の回復力に任せるしかない。しかし当の本人はゆっくり休めと言えば低く唸るばかりなのはなんとも。
「隊長、なんでそんなに拘るんですか?」
汗に濡れた背中をタオルで拭ってやりながら投げ掛けてみる。ブルームハルトからしたら進言されて仕事を休めるなんてラッキーとしか思えないのに。
「……あの人から預かった連隊だぞ、たとえ俺がお飾り連隊長だとしたってそんな不甲斐ない真似ができるか」
これには呆れた。お手上げだとブルームハルトは文字通り両手を挙げた。本当に馬鹿もいいところじゃないか。しかし、どんなに大馬鹿野郎だと思っても相手は上官だ、殴るわけにもいかないし、ましてや病人だ。
「……ねぇ、終いにゃ俺だって怒りますよ?」
横たわる身体を押さえつけるように体重をかけのしかかる。
「先輩が明日ベッドから起き上がれないくらいに今ここでめちゃくちゃに抱き潰すことだって俺にはできるんですからね」
脅しのつもりだったが、馬乗りになったまま上体を倒してグリッと浮き出た喉仏に吸い付いたところでガツンと脳天に衝撃を受けた。リンツの顎が直撃したのだ。
「……やめろ、気分じゃない」
「残念、先輩の気分は問題じゃないんです。まだ、わからない?」
脳天がジンと痛むがここで退くわけにはいかない。脱力している身体の手足を標本の蝶のように膝頭と足首とで磔にすることなど造作もなかった。
「やめろ、止めてくれーー」
ブルーグリーンの瞳の奥に畏れの色が揺らめくのをブルームハルトは初めて見た。力無く慈悲を乞う姿には胸が詰まるが、悪いのはむしろリンツのほうでいわゆる自召危難というやつだ。それにこれは肉の欲などではないのだ。
「…やっぱり先輩、全然わかってない。おれ、いま、めちゃくちゃ怒ってるのに」
清拭したばかりだというのにすでにしっとりと汗ばみ始めている肌から手のひらに伝わる熱は驚くほど高い。本当にこのまま彼を抱き潰してしまうのは容易い、だがそうしたところで彼が改心することなど万分の一も無いことは火を見るより明らかなのだ。そしてその後に死にたくなるほど後悔する自分が居るであろうことも。
「……悪い」
「何が悪いのか解ってないのにとりあえず謝るの、なんかすげぇ腹立ちます」

ブルームハルトは自分自身には1ミリグラムも価値を置いていないリンツが憎らしくて堪らない。「あの人から預かった連隊」だと?ふざけるのも大概にしろと。あんたの連隊だ、あんたを信じて命を懸けているというのに。
「俺なんか連隊長の器じゃないのは解っているんだ。俺はあの人の名代だからこそ…」
ヒュンッと空気を裂く音がして重い拳がリンツの顔ギリギリを掠めて着地した。
「……二度と言わないでください、そんなこと。あんたが連隊長なんだ、あんたに預けた俺らの命、そんなに安っちくねぇよ」
自分とたった2つしか違わないその身で二千余名からの荒くれものを纏めあげる重責は計り知れないが、シェーンコップが退いた今、兵士を鼓舞し、率い、纏めあげられるのは彼をおいて他にない。事によると、シェーンコップが稀代の連隊長たり得たのは彼の下につく兵士を手足となるようきっちりと纏めあげたカスパー・リンツの功績大であるかも知れないのだ。
ブルームハルトとてシェーンコップを敬愛している。それは相違ない、だがそれ以上に当代の連隊長であるリンツを慕っているし、彼を支えたいと思っているのだ。
「俺にも分けてください。先輩が背負うもの、俺が下から支えてみせますから」だから胸を張ってください、と。
そうは言ってもリンツは頷かないのは百も承知している。それでもブルームハルトは自分を頼って欲しかったのだ。

「……寝れない。おまえ、俺のこと抱き潰すっつったな?潰さなくていいから眠らせてくれないか?」
「えっ!?そんなことして大丈夫なんですか?」
「バカ、おまえが言い始めたことだろう?そこまでヤワじゃないよ」
へにゃりとらしくなく険の無い目付きを見れば、そんなことをせずともじきに眠ってしまいそうだ。
「本当にするんですか?」
「しつこいな、嫌ならいい」
言うが速いか掛け布団のなかに潜り込もうとしている。
「いっ、嫌じゃないです。誠心誠意ご奉仕させていただきますッ!!」



そうは言ったもののいざ行為に及んでみればブルームハルトも及び腰にならざるを得ない有り様で。
触れた箇所がどこもかしこも焼けるように熱く、溢れる声も喘ぎ声なのか呻き声なのか譫言なのかという有り様だ。思考も混濁しているのか無理だと身体を離せば嫌だやめないと泣き出さんばかりにしがみつく。酔っぱらいよりも質が悪いことといったら……
とうとうブルームハルトが根負けする形で胎内に指を差し入れてはみたものの、直腸温の高さに怯んでいざ挿入には二の足三の足を踏む。
やれ、無理ですの押し問答の果てにリンツの閉じさせた太腿の付け根で交接するに到る。
どうにか宥めすかした妥協点だ。
いわゆる素股で一発抜けば気も済んだのか落ちるように眠ってしまった。

ローションやらなにやらでもう一度全身の清拭が必要になったが、まぁこれは致し方無い。これも看病というのか定かではないが、できれば高熱に魘された悪夢とでも思って記憶が無ければ良い、とブルームハルトは思う。


*****


リンツが寝入ったのを見計らってブルームハルトはそのまた上官へと一報を入れた。

「リンツ連隊長が体調を崩されましたので明日はお休みをお取りいただくよう致しました」
「二空の隊長から小耳に挟んでいたが、そんなに悪いのか?」
「医師の診断によれば扁桃炎による発熱だそうで夕刻には39度台でした」
「疲労とストレスか。面の皮が厚いようで防御の甘い奴だからな。しかしまぁ、よくもあいつが承諾したものだ」
「それは小官が誠心誠意、真摯な愛を以て説得しましたから」
「ほう、じゃあ3日位はベッドから起き上がれないくらいにしてやったのか?」
そう言われて、先刻までのドロドロに溶かされるような彼の胎内の熱を思い出して、カッと顔が熱くなる。
気づけばクスクスと人の悪い含み笑いが聞こえる。何もかもお見通しだと云わんばかりに。まったく食えないオヤジだ。

「ブルームハルト、おまえさんの手に余るようならいつでも俺は助力を惜しまんぞ?」
「ご心配痛み入ります。でも、ご多忙な閣下のお手を煩わせずとも連隊長のお世話は俺がしますので」
「そうか、では、明日は俺が直々にかわいい部下どもの面倒をみてやろう。なに、気にするな、これも俺の職務のうちだ」
切電の後、ブルームハルトはほぅっと大きく肺腑の底から空気を吐き出した。
あの調子だと明日は仕事で地獄を見る羽目になるだろう、それどころかリンツのもとへも襲撃しかねない。
だが、ブルームハルトとて本命扱いしないどころか気持ちを弄ぶような真似を繰り返すシェーンコップにリンツをおめおめと差し出すわけにはいかない。
鉄の棺に詰められてギリギリと締め上げられて圧死を待つかのような様相で、それでも勝負を降りることはできないのだ。





「ねぇ、先輩、俺を選んでよ」
イイ歳をして泣き出しそうな顔で呟いた言葉は今は安らかに眠れる男の耳に届くことは無かった。

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